Sunday, June 21, 2009

here's the voice that say; we're all basically alone.

椰子酒を飲むと飛びたくなる。ほろ酔いを過ぎると、背中がむずむずして、肩ごしに羽が生えてくるのが見える。
呑み屋の連中は誰も信じちゃくれない。

「悪い酒だな」

「あら、かわいいじゃない」



何も言うな。飛ぶために椰子酒を呑むのは恥ずかしいことだと思われるのは、彼だって知っている。



ほら、いま彼は軽やかな羽ばたきとともに窓から飛び出し、椰子の木のはるかな梢のさらにその先へ。



彼はいなくなった。でも、誰も気づいちゃいない。カウンターに残っているのは酔いつぶれて寝入ってしまった彼のぬけがら。

「爺さん、酒は終わりだよ」

みんな帰ってしまった後、店主が彼を揺り起こそうとした。



何も言うな。彼はいま月にいる。



-「飛ぶ男」本間祐

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